2014年5月10日 牛伏川本流水路(重要文化財)
治山治水を実現した自然石の精緻な水路
松本市内田にあります、古刹・牛伏寺。そのすぐそばを牛伏川(うしぶせがわ)という川が流れています。この牛伏川は大変な暴れ川として知られ、かつては大規模な土石流災害が頻発していました。このため、甚大な被害を受けていた地域住民の強い要望により、明治18年以降、内務省直轄事業(のちに長野県事業へ移管)として砂防事業が実施されました。牛伏川本流水路は、その最後期の構造物であり、平成24年重要文化財に指定されました。
牛伏川本流水路は、内務省土木局技師 池田圓男(いけだまるお)の設計指導によるものです。一部を除きほとんどが、空石積と呼ばれるコンクリートを使わずに石を積み上げる、熟練した石積技術により築かれています。フランスのサニエル渓谷を参考に造られたため、フランス式階段工とも称されています。
水路内には、19基の床固(とこがため)が階段状に配されています。この連続した階段は、堰堤とともに、砂防機能を果たすだけでなく、美しい落水表情をつくりだしています。
堰堤の内側には、斜三角に築かれた“袖”と呼ばれる石積みがあります。流れ下ってきた水をこの“袖”に当てることで、勢いを抑え、さらには流下させる方向を定めています。
山から土砂が流れ込むのを防ぐため、山肌にも石積みによる帯が縦横に配されています。周辺の地形に応じ、「山を治めた」先人の技術は、今も土砂流出防止の役割を果たし続けています。
足元には、二輪草、猫ノ眼草などの山地を好む植物が生えていました。コナラやミズナラといった落葉樹が群生しているため、初夏の新緑と秋の紅葉が見事で、写真撮影の好スポットにもなっているようです。